ミトはありがとうが嫌いだった
感謝する側とされる側という
格差を生み出す悪魔の言葉
殺人・放火・転売に並ぶ罪

ミトが嫌いということは間違ったことなのだ
間違いは正さねばならない
ミトは生徒総会に乗り込んだ

本日より「ありがとう」を 差別用語とするべきだ
認めるまで塩を舐めるぞ エレガントな戦略
ミトの顔が悪夢のように 萎びて黒ずんだころ
賛成1　反対300で ついに可決された

ナルはありがとうを守らんとする
危険思想を持ったテロリスト
親切にされたら 感謝したくなる
生まれながら異常者なのだ

席を譲りいいところを褒め
辛い時そっとそばにいて
罪のない人に感謝させる
下劣極まりない　捕まえろ

その後ナルは「ごめんなさい」と謝ったが
その言葉も謝る側 謝られる側 格差を生み出した
ラクダのフケ以下のカスめ 徹底的に打ちのめそう！
ミトの声にはもはや誰も　ついてこなかった

ミトがわっと泣いたので　ナルはそっとそばにいた
「嫌いなものは嫌いだよ」ミトは悔しくてたまらない
ナルは手を差し出した　「嫌いなものは嫌いでいいよ
でも何が間違っているのかは　みんなで決めたいんだ」

正しいと信じながら　誰かにとっての間違いを
乱暴に振り回すのが　人の弱さだから
間違いと信じながら　誰かにとっての正しいを
大切に包んだナルは　とても強く見えた

ミトはお礼を言わない
それでもナルの手を取った